1975年の名作『新幹線大爆破』が、樋口真嗣監督によってリブート。鉄道描写のリアリティ、ガイナックス時代からの盟友・庵野秀明さんの協力まで、執念とこだわりが詰まった舞台裏を明かしました 。

爆弾を仕掛けられた新幹線がノンストップで走り続け、犯人と国鉄職員たちの攻防を描いた『新幹線大爆破』。1975年に公開されて以降、手に汗握る緊迫感で多くのファンを魅了してきた本作が50年の時を経てリブート。本日4月23日から配信されます。監督を務めるのは、『シン・ゴジラ』や『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』を手掛けた樋口真嗣さん。幼少期に「爆発シーンを見ては鼻血が出るほど興奮していた」と熱弁する彼は、どのようにリブートに挑んだのでしょうか?爆発への執念、鉄道ファンの期待に応えるリアリティ、そしてガイナックス時代からの盟友である庵野秀明さんとの関係――。樋口監督の熱い想いを聞きました 。

ランドセルを背負って映画館へ駆け込んだオリジナル版

――1975年の「新幹線大爆破」が公開された当時、ランドセルを背負ったまま映画館に行かれたそうですね。小学4年生の頃、初日に観に行きたい気持ちが抑えられずに初めて学校をサボってランドセルを背負ったまま映画館に行きました。痛快なパニック映画が見られると思っていたら、犯人グループが全滅していく流れだったり、事件に立ち向かう国鉄の人のカッコよさに衝撃を受けました。名もなき職員さんまで含めて匠の技が光っていたんですね。一応、学校に行かなかった罪悪感はあったので「自分も爆破犯のような転落人生を歩んでいくのかもしれない」とも不安にかられたわけですが(笑)。結局、別の日にもう一度観に行きました 。

――小学4年生が見るには、内容がハードボイルドのような気もします。何がそこまで惹きつけたのですか?やっぱり、爆発 … … でしょうか。私は昭和40年生まれで、爆発と共に人生を歩んできたような気がします。特撮やアニメのヒーローもの、奇術師が絶体絶命の状況から生還する「奇跡の大脱出」もの。石原プロの刑事ドラマ『西部警察』シリーズも、湖の真ん中で遊覧船を轟音と共に炎上させたり、工場の大煙突を倒した挙げ句に爆発を起こしたり。日本全国の津々浦々を爆発の渦に巻き込んでいました。私は、そういう番組を見ては鼻血が出るほど興奮していた子どもでした。親はさぞ心配したでしょうね 。

――爆発には一家言ある少年だった。アニメでも爆発シーンが大好きで、『宇宙戦艦ヤマト』は素晴らしかったですね。煙が伸びて、破片が尾を引いて飛んでいく … … 。逆に、一世を風靡した『スター・ウォーズ』シリーズの第一作目は、巨大な要塞が吹き飛ぶ場面なのに、戦闘機の破壊と同じスケール感で描かれていて … … 。「違う ! 俺が求めてきた爆発はコレじゃない … … 」という絶対届かないダメ出しをしていました。素晴らしい映画ですが、何も知らない子どもだったので 。

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1975年の名作『新幹線大爆破』が、樋口真嗣監督によってリブート。鉄道描写のリアリティ、ガイナックス時代からの盟友・庵野秀明さんの協力まで、執念とこだわりが詰まった舞台裏を明かしました。

現場で震えた。自分が大好きだった作品の遺伝子を感じる爆発技巧

――『新幹線大爆破』のリブートを手掛けることになったのは、まさに幼い頃からの執念が実を結んだ瞬間ですね。感慨深いです。でも「どんな爆発でもいい」わけではない。自分で絵コンテで描いてはいたのですが、理想的な煙の立ち方や破片の飛び散り方を現実に落とし込んでいくのは特殊効果部の皆さんです。彼らは、『西部警察』の頃に爆発を手掛けていたチームの後継者だったので、脈々と受け継がれてきた技巧を目の当たりにしました。中盤である建物が爆発するのですが、それは石原プロで見てきた表現そのもの。細かい火薬を仕掛けるのではなく、土砂を積んだ中に火薬を仕掛けるんですね。爆発すると土砂で建物が壊れていくという … … 伝統的な爆発描写です。一人のファンとして撮影現場で震えていました 。

――『シン・ゴジラ』ではゴジラを倒すための「無人在来線爆弾」などが出てきますが、今回はその時のノウハウは活かされていたのでしょうか?アプローチが全く違うので、質問の答えはノーです。『シン・ゴジラ』では、ゴジラが出てくる手前「CGでどこまでダイナミックさを表現できるのか」を主軸に置いていましたが、今回は「どこまでCGを減らせるのか」を主眼に置いていました。今回もVFXは使っているのですが、JR東日本さんのご協力があったので、潤沢な撮影素材がありました 。

撮り鉄作品を参考に……誰もカメラを回したことない場所・アングルで撮影

――どうやってJR東日本からの特別協力を得られたんでしょうか?脚本を練ってる段階では協力は得られないと思っていました。セットやミニチュアを全部作り込まなくてはいけないと思っていたのですが、JR東日本さんが「エンタメで東日本を盛り上げよう」と快諾してくださりました。新幹線をたくさん描いて欲しいというニーズもあったようです。私も鉄オタなので、撮り鉄のみなさんの写真や動画を研究し尽くしました。JR東日本さんに「ここは撮れますか?」「こっちはいけますか?」と前のめりで相談していたのですが、徐々にJR東日本さんの方から「もっと良いスポットがありますよ」と教えていただき … … 今まで誰も撮ったことのない場所に入れてもらってでカメラを回しました 。

――撮影のために、新青森 ─ 東京間を特別車両が7往復したそうですね。贅沢な環境にも見えますが、チャンスは7回しかなかったとも言えます。どんな苦労がありましたか?我々よりもJR東日本さんの方がはるかに大変だったと思います。1975年から比較して、新幹線の本数は比べられないほど増えました。3分に1本、新幹線が駅に来る時間帯すらある時刻表の中に、我々の1本をねじ込ませるのはさぞ難しかったと思います。映画でも描写がありますけれど、新幹線には急病人が出たり、不具合があったり、コントロールできないトラブルが日々起きる。少しトラブルが起きても、すぐに挽回するんですよ。撮影用の車両を走らせながら、通常の時刻表を変えずに運行していたのは「さすが」としか言えません。新幹線車内の撮影は、本物の特急こだまで運行中に撮影した黒澤明監督の『天国と地獄』をチームみんなで見て、「こうすれば十分な撮れ高になる」と検証して臨みました 。

監修面で「そんな危ない方法とらないです」に納得、一方であえて残した描写

――撮影以外の部分でもJR東日本さんの協力があったかと思いますが、どのようなサポートがあったのでしょうか。脚本や設定、芝居の監修 … … 多岐にわたります。というのも、オリジナルの『新幹線大爆破』の公開後に、鉄道ファン向けの雑誌で「この映画のここがおかしい」という記事を見て、幼いながらに残念な気持ちになった記憶があるんです。なので、自分がリブートする際は鉄道ファンの方が見ても納得してもらえるようなリアリティを追求しました。シナリオを確認していただいた際は「そんな危ない方法をとらないです」とアドバイスをいただいたり、ホワイドボードに路線図を書いて「ココにはポイントがあるか?レールがあるか?」と、検証してくださいました。まさに映画で描いたシーンのよう。だんだんJR東日本の方が、斎藤工さんに見えましたから 。

――オリジナルでは宇津井健さんが演じた新幹線総合指令所の総括指令長ですね。そうです。オリジナル版では宇津井さんが双眼鏡を構えながら、新幹線の運行状況を示す巨大な電光板を見ているのですが、JR東日本の方からは「使わないです」と言われまして(笑)。運行状況は各々が手元のモニターで逐一確認しているので、電光板自体が存在しないそうなんです。でも、どうしても描きたかったので、電光板も双眼鏡も再現しました。ここは譲れなかった 。

運転士が千葉真一からのんに。現実世界でも増える女性運転士

――主演は草彅剛さん演じる車掌です。オリジナル版ではスポットがあたらなかった車掌を主役に据えたのはなぜでしょうか?車掌を主人公にしたのは、列車の中にいる人間の中では車掌が一番お客との接点が多いからです。2〜3人で数百人の乗客の対応をしなくてはいけないので、大きな責任を伴う役職でもあります。混乱する車内と、任務を遂行しなければいけない切迫感。この板挟みを描くためには、車掌にスポットを当てるのが妥当だと考えました。取材の結果、指令所の連絡を受けて乗客に情報を伝えるのも車掌だということもがわかったのも大きいです。運転士はストイックに運転に専念しているので、基本的には運転席から離れないそうです 。

――オリジナル版では千葉真一さんが演じていた運転士は、今作ではのんさんが担われています。女性の運転士が増えていることをふまえてのキャスティングだそうですが、どのようにキャラクターを作り上げていったのでしょうか?取材を重ねていると、現場には女性の運転士がけっこういらっしゃったので、そこから案が浮かびました。のんさんが演じた運転士は、モデルになったというか … … 話し方や仕草を参考にさせていただいた方がいらっしゃいます。のんさんは、コロナ禍に作った監督作『ribbon』で特撮のお手伝いをしたり、宣伝用のコマーシャルを演出させてもらったりしてましてが、その頃から「アクション映画に出てみたい」と言っていたんです。キャスティングを考える際に「この映画は広義の意味でアクション映画とも言えるし、千葉真一さんも『新幹線大爆破』では、運転席に座りながらアクションを体現していたから … … 」とオファーさせてもらいました(笑)。――森達也さんも独特な存在感がありました。自分の作品には、今回に限らず「映画監督枠」のキャストを設けているんです。その枠でお願いしました。どの方も、役者さんにはない芝居をされるというか … … 。普段から、現場にお邪魔しては「この監督さんにいつかオファーを出したい」と考えています。森さんは、素晴らしいドキュメンタリーをいっぱい撮って、一昨年は劇映画の監督もしてそれも素晴らしかったんですよね。以前一緒に仕事をさせていただく機会が何度もあったのでお願いしたのですが、芝居も素晴らしかったですね 。

庵野秀明がデザインした"あるもの"

――「プロップデザイン」のクレジットに庵野秀明さんが記載されています。『新幹線大爆破』は実物を使っていることが多い作品だと思うのですが、何のデザインをお願いされたのでしょうか。 … … 1 個だけありますよね?もうね、庵野さんに対するパブリックイメージって「監督」になっていると思うんですけれど、俺の中では一番最初はメカの人。『超時空要塞マクロス』を学生の時からやってるし、メカ作画監督。この人にメカを描かせたらこの人が日本一。それは今でも変わらないんです。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 : 破』で、碇ゲンドウたちが乗った月往還有人着陸船が好きでね。そっけなくて必要な部品だけで構成された、かっこよくないかっこよさ。このバランスが非常に素晴らしくて「この人の描くメカは最高だ」と思い出して「いつかメカデザインをお願いしたい」と考えていました 。

――オリジナル版は海外からの評価も非常に高いです。Netflixでの配信で期待はありますか?オリジナルの『新幹線大爆破』は、当時流行っていたパニック映画を日本式に落とし込んだ作品とも言える。このフォーマットには普遍性があるのだと思います。まずは国内のみなさんに納得していただけるものを作ろうと思ってはいますが、国境を超えられる力がある作品だとも思っています。何より映画でやれてよかった。もしもドラマとしてリブートさせるのであれば「続きはどうなる?」という仕掛けをもっと多く用意しなければいけないですし、冗長にならない演出が必要になってきます。この作品は、2時間強で一気に駆け抜けるからこそ楽しめるスピードがある。制作中は、自分の体内時計がどんどん早くなっていて、この作品以外のすべての時間がゆっくり感じてました(笑)。一番気持ちいいスピード感を出せたと自信をもって言えます 。

Netflix映画『新幹線大爆破』

出演:草彅剛、細田佳央太、のん、要潤、尾野真千子、豊嶋花、黒田大輔、松尾諭、大後寿々花 、 尾上松也、六平直政、ピエール瀧、坂東彌十郎、斎藤工監督:樋口真嗣原作:東映映画「新幹線大爆破」(監督 : 佐藤純彌、脚本 : 小野竜之助 / 佐藤純彌、1975年作品 )

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樋口真嗣監督

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『新幹線大爆破』の1シーン。最も右が草彅剛さんが演じる車掌

『新幹線大爆破』で総括指令長を演じる斎藤工さん / Netflix

『新幹線大爆破』の1シーン

『新幹線大爆破』より。草彅剛さん演じる車掌(左)の隣りで、のん演じる運転士がハンドルを操作している

樋口真嗣監督

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Person with long hair and white gloves kneels and looks thoughtfully upward, wearing a stylish jacket in an artistic setting

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