実写版『岸辺露伴は動かない』主演の高橋一生さんは、小学生の頃から『ジョジョの奇妙な冒険』を読み続けてきた筋金入りのジョジョファン。5年間演じてきた岸辺露伴の多面性や、映画『懺悔室』への想い、そしてジョジョに登場する“敵キャラの美学”について熱く語りました 。

「 覗いてはいけない世界を見ているようだった」――息つく間もなく語り続ける高橋一生は、小学生の頃から『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)を愛読し、その闇や毒、人物たちの奥行きに心を奪われてきた。実写ドラマ『岸辺露伴は動かない』で主役の漫画家・岸辺露伴を演じて早5年。映画『ルーヴルへ行く』を経て、たどり着いたのはシリーズ原点の物語『懺悔室』だ 。

ジョジョシリーズで衝撃を受けた敵キャラたち、物語に流れる美学、そして岸辺露伴への特別な感情 … … 。5月23日の劇場公開に合わせて、胸の奥にたまった記憶と熱を高橋に吐き出してもらった 。

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実写版『岸辺露伴は動かない』主演の高橋一生さんは、小学生の頃から『ジョジョの奇妙な冒険』を読み続けてきた筋金入りのジョジョファン。5年間演じてきた岸辺露伴の多面性や、映画『懺悔室』への想い、そしてジョジョに登場する“敵キャラの美学”について熱く語りました。

小2でハマった『ジョジョの奇妙な冒険』。「死以上のラスト」に戦慄した少年時代

――高橋さんは『ジョジョの奇妙な冒険』を小学生の頃から読んでいたそうですね。どんなところに惹かれましたか?リアルタイムだと第2部(『ジョジョの奇妙な冒険   戦闘潮流』)に登場するエシディシが出てきたくらいから読んでいます。ちょうど、第2部から第3部(『ジョジョの奇妙な冒険   スターダストクルセイダース』)に移行するぐらいで、ジョセフたちの闘いが盛り上がっていくときでした。小学校2年生ぐらいだったかと思います。――私は小学生の時から週刊少年ジャンプを買っていて、当時は第6部(『ジョジョの奇妙な冒険   ストーンオーシャン』)連載時でしたが、描写が怖くてしっかり読めていませんでした。第6部で怖かったなら、第2部や第3部はもっと怖かったんじゃないですか ? 第5部あたりから絵柄が変わったと思うので。かく言う僕は、ジョジョの怖いところに惹かれていたんだと思います。シリーズの序盤は、スプラッター映画やホラー映画を彷彿させるようなシーンが多い。2部のリサリサが足だけでぶら下がっているシーンの血溜まりが垂れていく描写は写実性もあって、おどろおどろしかった。カーズのラストシーンは「死以上のもの」で、「なんて怖い終わりなんだ」と衝撃を受けたのを覚えています。――「死にたいと思っても死ねないので、そのうちカーズは考えるのをやめた」?そうそう ! 屈指の名シーンですね。荒木先生の作品に詰まっている闇や毒に触れては、他のマンガでは味わえない愉悦を感じていました。――当時は週刊少年ジャンプでは『ドラゴンボール』や『キャプテン翼』などの超人気作の中で、異色作品の立ち位置だったと思います。周りは『ドラゴンボール』一色で「昨日のアニメ見た?」というような話が学校中で飛び交ってましたけれど、僕はひっそりジョジョを読んでは「こういう物語が好きだ」と思っていました。覗いてはいけない世界を見ているようで 。

――孤高のジョジョラーだった … … ?そうですね。友だち同士でワイワイ読むタイプではなかったです。好きな気持ちを長期熟成させていました。ジョジョ作品は悪役のキャラクターの人格がはっきりしているところもいいですね。(第1〜3部の)DIOを筆頭にヴァニラ・アイスもとてもかっこよくて「敵が魅力的過ぎる ! どうなってしまうんだ」と勝手に心配することが多かったです。悪役はもちろん主人公たちに倒されるわけですが、ジョジョは「悪い奴を倒すぞ!」という正義感にとどまらない奥行きがあって、少年誌の枠を超えていたと思います。当時は勧善懲悪な物語が人気でしたが、ジョジョだけはもっと複雑な物語に見えました 。

第4部実写映画の発表を聞き「誰が露伴をやるんだろう」と考えた

――露伴先生が登場する第4部(『ジョジョの奇妙な冒険   ダイヤモンドは砕けない』)連載当時は高校生ぐらいでしょうか 。

はい。ちょうど俳優を仕事にしようと思い始めていたタイミングです。第4部では舞台が日本 … … しかも仙台あたりだったので、急に「迫ってきた」印象を受けました。第3部までは世界を股にかけた戦いをしていたのに、一気に半径10メートルぐらいの物語に変わった。その振り幅に驚いたのを覚えています。吸血鬼の話を引きずりつつ、ラスボスが殺人鬼なところがいいと思っていました。ミニマムだからこそ怖さが引き立つ。ラスボス・吉良吉影は本当にいい悪役。後日談の『デッドマンズQ』って読まれました ? 第4部の死闘の後に、吉良吉影が尼さんと組みながら「ある仕事」をしている物語ですが、これを読むと彼には徹底したポリシーが貫かれていることがよくわかる 。

彼には生前から美学がありましたけれど、吉良にとって「死」とはなんだったのか … … と考えさせられてしまう。一括りに「悪」と言い切れない側面がある。こういった想像力が刺激されるのは、荒木先生の作るキャラクターの中に、いくつもの人間性がはいっているからだと思うんです。露伴も同じで、初登場シーンはもはや悪。作品のリアリティを追求するために蜘蛛の内臓を見てみようと言い始めて「味もみておこう」と言いながら舐める。相当ヤバい人です(笑)。一方で故人に対して「さびしいさ ! ぼくだって行ってほしくないさ!」なんて繊細な発言もする。異様さから繊細さに行き着くまでなんの助走もない。いろんな露伴が共存しています 。

『岸辺露伴は動かない 懺悔室』

90年代くらいから「キャラが違う」という言葉が、日常的に使われるようになっていて、現実の世界でも「人格はひとつのものとして一貫されるべきもの」というような雰囲気が漂い始めていたような気がするんです。僕はこの「キャラが違う」という言葉があまり好きではなかったですし、ひとりの新人俳優として非常に勇気づけられた作品でした。というのも、ジョジョはいい意味でキャラという枠を度外視した人物造形がある名作。ジョジョを読んでは自分も「この俳優といえばこういう役」ではない、幅の広さを見せられるようになろうと背中を押してもらっていたように思います 。

露伴は少年漫画の登場人物らしからぬ、仕事に対する哲学を熱弁するキャラクターでもあります。若い登場人物が多い少年誌のキャラクターとしてはすごく特殊な人物だったような気もします。仕事について考えることも多かった高校時代だったので、露伴の背中を追いかけていた部分はあったと思います。なので、第4部が実写映画化されたときは「誰が露伴をやるんだろう」「絶対に自分がやりたい」と思っていました。――第4部の実写映画作品には、露伴先生は登場しませんでしたね。そうですね。本当にやりたい役だったので『岸辺露伴は動かない』で、オファーをいただいた時は、文字通り小躍りしました。しかも脚本はアニメでもシリーズ構成を務めた(小林)靖子さん。安心感もありました 。

「ヘブンズ・ドアー」のポーズは撮影時に決まっていなかった

――ドラマの『岸辺露伴は動かない』シリーズは、原作の奇妙さを残しつつ「もしも露伴が現実世界にいたら」というリアリティを感じる作品です。必殺技「ヘブンズ・ドアー」はどのように形作っていったのですか?物語の冒頭では初見の人がわかるように、発動までに長めに尺をとっています。物語が進んでいくと、仕草ひとつで「ヘブンズ・ドアー」が開いていたりもするのですが、そういう丁寧な描写が脚本には落とし込んでありました。実は、初めて「ヘブンズ・ドアー」を使うシーンを撮影した時は、まだ仕草が決まっていなかったんです。あの技は露伴の連載作品『ピンクダークの少年』の絵柄を空中に描いて発動させていますが、どうすれば自然な動きになるのか答えが見つけられていないまま、撮影に入ってしまった 。

マンガを描く動作から扉を開く動きに一瞬で流れていくのですが、実は指がとても特徴的なんです。第4部の5巻で杉本鈴美に「ヘブンズ・ドアー」を使うシーンのコマが頭にあったので、それを参考にしてポーズを決めました。原作以外には、自分がサインを描くときの動作も混ぜています。もともと僕は自分のサインを持っていなくて、求められた時は署名をしていたのですが(笑)、ある時300冊分のサイン本を作る必要が出てきたので、当時のことを思い出しながら動きを作りました 。

岸辺露伴は歳を取らない、でも僕は――

――今回の映画作品は原作の『岸辺露伴は動かない』の原点である『懺悔室』です。原作は短編なので、物語にはいろいろな要素がプラスされていますが、脚本を読んだ時にどう思われました?靖子さんの脚本が素晴らしいんです。原作にはない要素として、登場する女性・マリアが仮面職人になっていますが … … ジョジョと言えば仮面じゃないですか 。

――第1・2部の石仮面とか?そうそう。物語のテーマにも、例えば父と娘における「血統を受け継ぐ」要素だったり「幸福とは何か」という問いがある。幸福については、第6部におけるプッチ神父はじめ様々なキャラクターが言及している概念です。こういった原作の要素が、露伴の世界に落とし込まれているので、ごくごく自然に読めました。靖子さんの手腕と、監督の(渡辺)一貴さんの原作愛から来るものだと思います。『懺悔室』は、原作では第1話という位置付けですが、実写も同じように初陣にあてていたら上手く行かなかったような気がします。――なぜですか?『懺悔室』は、露伴が本当に動かないからです(笑)。前回の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、タイトルに「動かない」がない通り、露伴が自分のルーツに触れ、謎を解くために奔走する物語でしたが、岸辺露伴シリーズにおいて露伴は基本的に語り手という立ち位置です 。

『 懺悔室』における露伴は徹頭徹尾、傍観者。赤の他人から「幸福の呪い」について懺悔を聞く話。奇妙な運命を前に、目をそむけたり通り過ぎてもいいわけです。でも、露伴はそこに居続けてしまう。好奇心もあるでしょうし、優しさもある。もっと別の感情もあると思いますが、そういうキャラクターの幅の広さは、これまでの積み重ねがないと作れなかったと思います 。

高橋一生さん

――岸辺露伴を演じてから5年、シリーズにして10作品目だからこそたどり着けた。そうですね 。

――高橋さんは長い付き合いになった露伴先生に対して「年齢を重ねる描写がない」ことに、ひっかかりを覚えていたそうですが、『懺悔室』では連載している『ピンクダークの少年』の話が進んでいましたよね?はい。これまでこんなにも長い間ひとつの役と向き合うことはありませんでした。露伴も、寅さんや金田一(耕助)さんのように、時の経過も含めて愛されるキャラクターになるといいのにと思いつつ、露伴はやっぱり2次元の存在。これまで「歳を重ねている」描写がなかった存在でした。なので「自分が演じる露伴は寅さんのようにはなれないかもしれない」とも思っていて … … 。ただ、露伴はこれまで『ピンクダークの少年 第8部』を連載していましたが、今回からは第9部になった。時が進んでいるんです。振り返れば、ジョジョでもジョセフ・ジョースターや空条承太郎は歳を取っている。ジョジョ本編では、一巡した世界になっているものの、露伴も同じように年齢を重ねてもいいのかもしれないと思えました 。

まさにヴェネツィアで撮影している時に発表された短編小説集『岸辺露伴は嗤わない』の表紙が現場で話題になったんです。表紙の露伴の髪型が … … 「高橋露伴に似てきてない?」と(笑)。もしかしたら荒木先生が、高橋露伴を気に入ってくださっているのかな … … と思えて、その瞬間に「岸辺露伴シリーズは、続けていけるかもしれない」と安心しました。荒木先生と実写チームで往復書簡をしているような気持ちになりました 。

高橋一生さん

自分の年齢も考えるので、岸辺露伴が歳をとっていくことがわかっただけでも、嬉しかった。岸辺露伴はブラック・ジャックのような年齢不詳な存在ではない。『ピンクダークの少年』は進む、露伴も歳をとる、僕もまだまだ彼になれる。そんな感覚になれた作品でした 。

映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』

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高橋一生さん(Photo by 黒羽政士)BuzzFeed Japan

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Person with long hair and white gloves kneels and looks thoughtfully upward, wearing a stylish jacket in an artistic setting