福井県鯖江市の眼鏡製品を国内外に届けたいという思いで創業したオーマイグラス。ネット通販だけでなくリアル店舗も拡大する中でコロナ禍を迎えました。代表取締役CEOの清川忠康さんはいかに苦境を乗り越えたのか ?
アメリカのスタンフォード大学でMBAを取得した後、オーマイグラス株式会社(東京都港区)を立ち上げた代表取締役CEOの清川忠康さん。眼鏡のネット通販専業だったのが、リアル店舗にも注力していく中でコロナ禍を迎えました。清川さんは、どう乗り越えたのか。詳しくインタビューしました 。
日本のメガネ産地である福井県鯖江市で作られる製品を国内外に届けたいという思いで、スタンフォード大学ビジネススクール卒業直後の2011年7月に清川さんが創業したオーマイグラスは、ネット通販としてスタートしました。スタイリッシュで高品質なメガネを自宅にいながら試着して購入できるオーマイグラスはたちまち評判となりました 。
福井県鯖江市の眼鏡製品を国内外に届けたいという思いで創業したオーマイグラス。ネット通販だけでなくリアル店舗も拡大する中でコロナ禍を迎えました。代表取締役CEOの清川忠康さんはいかに苦境を乗り越えたのか?
2015年から実店舗を出店し、2025年4月現在は全国に27店舗を展開しています。こうした実店舗で得た消費者のフィードバックを元に、「麻布眼鏡堂」や「Oh My Glass TOKYO」といった自社ブランドも展開しています 。
【起業の経緯】留学中に起きた東日本大震災。「いつどうなるか、わからない」
ーースタンフォード大学ビジネススクールに卒業直後に起業していますが、当初から「起業しよう」と志していたのでしょうか ?
留学した時点では、起業一直線というよりもむしろ、「将来、どうしようかな」と悩んでいましたね。サラリーマンをずっとやっても、それはそれでよかったとも思います。ただ、「サラリーマンとしてこれがやりたい」「次はこの会社に就職したい」という希望もなかったんですよね 。
そんなふうに迷っていた時に、東日本大震災が起きたんです。僕は関西出身なので、子どもの頃に阪神・淡路大震災も身近に経験していて、その当時に「いつどこでどうなるか、わからない」と強く感じたことが思い起こされました 。
だから、やりたいことを早めにやったほうがいいと思って、まず試しにアメリカで会社を立ち上げました。しかし、地の利のないアメリカで起業すると就労ビザを始めとするビジネス以外の雑事に取られる時間が大きいことがやってみてわかった(笑)。そこですぐにその会社を畳んで、日本で起業し直したのがオーマイグラスです 。
【最大の苦境】ネット通販から実店舗での転換の時代
ーー起業から現在に至るブレイクスルーとなった出来事を教えてください 。
起業の時点ではそれほど大きな苦労はありませんでした。起業って、意外とすぐにできちゃうものなんですよ(笑)。僕の場合には、スタンフォードの経営大学院出身ということである程度、資金も集めることができました 。
それに起業して最初の3年間くらいは、創業のマジックが効いているんです。その期間はアドレナリンがでていて、何をやっても楽しく、新鮮に感じます。会社の規模自体が小さいから、問題も小さい。そのマジックが消えて、現実が突きつけられる時期が最も大変です。弊社でいうと、むしろ2015年の実店舗出店から2018年の高級路線転換に至るまでの期間ですね 。
ーー具体的にはどのような苦労があったんでしょうか ?
この期間は、ネット通販から実店舗への移行に伴ない、多くのことをトライアンドエラーで行いました。その試行錯誤の中で、赤字や離職者など、いろいろな悪いことが重なって起きました 。
そもそも実店舗を出したのは、ポップアップなどを出店してみたら、思っていたよりも集客することができたから。広告効率を考えると、実店舗を展開する勝算が十分に見えました。しかし、ネット通販と実店舗では勝ち筋が異なります。2015年時点まではファッションは中価格帯が好調だったので、弊社のネット通販も中価格帯を狙っていました。しかし、これからは中価格帯が厳しくなって、二極化していくのではないか、とも予測していたんです 。
だから、実店舗で勝つためには中価格帯から高価格帯に転向し、これまでの20〜30代だったターゲットもそれに合わせてから30〜50代に変え、丁寧な接客をする必要がある。そうはいっても、当時はネット系の人材が多く、会社のカルチャーもネット寄りでフラットな組織でした。つまり実店舗で戦っていくのには、店舗で接客をする人材を増やし、組織体制や企業文化も合わせて変えていかなければいけませんでした 。
ーー企業文化の変更は経営戦略を実行する上で重要でしたか ?
接客業においては、企業文化も一つのプロダクトだと思うんですよね。例えば、ルイ・ヴィトンのカバンはブランドの店舗でもディスカウントストアなどでも買うことができるけれど 、 ルイ・ヴィトンの店舗には独自の雰囲気があり、ディスカウントストアで購入するのとは別の体験を提供しています。その接客の背景には企業文化があり、富裕層向けの接客をするのであれば、細部まで意識して作り上げる必要がある。そういう意味で企業文化を作り上げるのは、経営者の責任であると考えています 。
例えば、リモートワークや喫煙など、社員の働き方にまつわるルールは、雑に「0か100か」といった設定はしないようにしています。ルールを設定する際には関係する人にもしない人にも公平になるように気を配り、真面目で優秀な人が不利益を被ることがない企業文化を心掛けています 。
弊社の社員は、自立性と多様性を受け入れる誠実さがあり、プロフェッショナルとしての真剣さを持ち合わせている。そういう真面目な人たちは本来的にルールを破らないんですよね。弊社の店舗では、服装規定を設けておらず、それぞれが私服で接客していますが、それでも世界観を守ることができるのは企業文化にフィットした人材であるからだと思います 。
【コロナ禍】経営者の「手腕が問われる時期」だった
ーー2020年から21年にかけて、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が発令さるなど、いわゆる「コロナ禍」を迎えました。オーマイグラスにとってどんな時期でしたか ?
コロナ禍も苦しい時期ではありました。でも、2015年から2018年の苦しさとは全く違いましたね。コロナ禍は自分たちだけではなく、みんなが苦しく、気持ちで負けると、新しい変化を起こせなくなる時期でした。だからこそ経営者の手腕が問われる時期でもあり、僕はみんなが苦しい時にこそ、いかに競争相手を出し抜くかが重要だと考えました 。
実は弊社はこの期間に実店舗をかなり増やしたんです。他社が縮こまっている時こそ攻めていかないと勝てない。そもそもコロナ前に経営方針が定まったことやネット通販があったおかげで、コロナ禍でも売上がそこまで落ちなていなかったんです。この時期に実店舗を広げた結果、コロナ禍終息後には急激に売上が伸びました 。
【経営スタイル】「こうあるべき」というこだわりはありません」
ーーそもそも最初から起業しようと考えていたわけではなかったとおっしゃっていましたが、ご自身のことを経営者向きと考えていますか ?
向いていると思います。特にフラット型からピラミッド型の組織に改変したここ5、6年は、起きる問題もある程度は予測ができると実感でき、「向いていない」と感じることが少なくなりました。むしろ、経営者以外は向いていない。実はサラリーマンをしている時、向いていないな、と思いながら働いていました 。
ーーでは、ご自身はどんなタイプの経営者と考えていますか ?
経営者として「こうあるべき」というこだわりはありません。例えば、リーダーとして社員を引っ張っていことも、フラットに社員と話し合って進めることも、どちらもでき、その時々の会社の状態やメンバー次第で適したやり方を選んでいます。ただし、それまでの成功体験を元にこれからの道筋をつくるタイプというよりは、変化を好む性格であるとは言えます 。
2020年頃からYouTubeで“めがねシャチョウ”として発信しているのもそのひとつです。広報の一環として始めたのですが、ブランドや自分の認知度アップという効果よりもYouTubeというプラットフォームを理解したり、大衆に晒される中で話す経験を積みたいという気持ちのほうが大きいですね。こうしたツールは実際に自分で使ってみてこそ、深く理解して宣伝戦略にも活かしていけると実感しています 。
ーーこれまでのインタビューやnoteのエッセイなどでも「地味なことをがんばる」「地道なことを続ける」ことを訴えていらっしゃいますね 。
経営者にとっても消費者感覚や現場感は非常に重要です。例えば、僕は日常から歩いて移動しています。1時間くらいは平気ですね。僕らは一般消費者をターゲットにしているので、街の変化を感じることは勉強になるんです。ランチも流行っている店でとるようにしています。チェーン店でも「こんなに行列しているのか」とか「この価格でこれだけの内容が出せるんだ」とかすごく勉強になりますよ 。
今でもフレームの卸販売に出ることもありますし、そこでもも学びがあり、情報収集にもなっています。打ち合わせも海外出張も一人で行くし、手配も自分でしていますね 。
清川さんの【起業家になるための3箇条】
ーー最後に、これから経営者になりたいと考えている人にアドバイスをお願いします 。
ひとつ目は、「食わず嫌いせず、いろいろ体験する」。本を読んだり、趣味を楽しむのもそうです。消費者として多くを体験することは財産になります 。
ふたつ目は「無駄を省いて、仕事に集中する」。忙しさに付き合いや惰性でやっていることが多く含まれている人がかなりいます。人生を前進させないことに時間を費やすのはもったいないと思います。そういう無駄をなくすだけでも、仕事のパフォーマンスはすごく上がります 。
最後に、起業は自分の気持ちが高ぶっている時にやっちゃわないと。気持ちの鮮度って大事です。格闘家でも「怪我をしていてもタイトルマッチができるなら、やったほうがいい」と言うように、そこを逃すと次があるかわからないというタイミングがあります。溜めをつくらず、熱が冷める前に起業したほうがいいと僕は思います 。
BuzzFeed Japan株式会社と朝日放送グループは資本関係にあります。この記事はABCドリームベンチャーズとの共同企画です 。
清川忠康さんのプロフィール
大阪府生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、インディアナ大学大学院に留学。UBS証券、経営共創基盤を経て、スタンフォード大学ビジネススクールに留学。卒業直後の2011年7月、株式会社ミスタータディ(現在のオーマイグラス株式会社)を創業し、代表取締役に就任 。